概要

英国の競争・市場庁(CMA)は2026年5月14日、Microsoftのビジネスソフトウェア慣行に関する9か月間の正式調査を開始した。この調査は、Microsoftが英国のデジタル市場規制上の「戦略的市場地位(SMS)」に指定されるべきかどうかを判断するもので、結論は2027年2月頃に公表される見通しだ。SMS指定を受けた場合、CMAはMicrosoftに対して競争促進のための行動指針(Pro-competitive Interventions)を課す権限を持つことになる。

CMAの最高経営責任者であるSarah Cardell氏は「ビジネスソフトウェアは英国経済が機能するうえでの要です。これらの市場がどのように発展しているかを理解することが目的であり、英国の組織が選択肢、イノベーション、競争力のある価格から利益を得られるよう確保したい」と述べ、調査の意義を強調した。

調査の対象範囲

CMAが今回審査する分野は広範にわたる。具体的には次の5点が主な論点となっている。

  1. 製品バンドル慣行――Microsoftのアプリケーションが第三者製品に対して競争上の優位を得ているかどうか
  2. 統合バリア――MicrosoftとサードパーティSaaSプロバイダー間の互換性制限
  3. デフォルト設定――顧客が代替ビジネスソフトウェアへ乗り換えることを妨げる既定設定
  4. AI統合――Microsoft CopilotなどAI機能の組み込み方と、競合他社が同等に統合できるかどうか
  5. ソフトウェアライセンス慣行――特にAWS・Google Cloudなど競合クラウド基盤上でのホスティングに関するライセンス条件

調査対象製品はMicrosoft 365などの生産性ソフトウェア、Windows OS(PC/サーバー)、SQL Serverなどのデータベース管理システム、セキュリティソフトウェア群と幅広い。

背景――クラウド市場調査からの流れ

今回の調査は突然始まったわけではなく、CMAが長期にわたって続けてきたクラウド市場監視の延長線上にある。CMAは2025年7月にクラウドサービス市場調査(Market Investigation)を終了しており、その過程でMicrosoftとAmazon Web Services(AWS)に対してクラウドの出力(エグレス)料金の修正と製品間相互運用性の改善を求めていた。両社は2026年3月にこれらの条件に合意し、その時点ではSMS指定を回避したが、その後もMicrosoftのビジネスソフトウェア全体に対する競争懸念は払拭されなかった。なお、AWSは今回の調査でもSMS指定の対象からは外れている。

今後の見通し

CMAは2027年2月までに調査結論を出す予定だ。仮にMicrosoftがSMS指定を受ければ、CMAは製品バンドルの解除やライセンス条件の変更、相互運用性の強制開放といった措置を命じる可能性がある。AIが業務ソフトウェアに深く組み込まれていく中で、WindowsやTeams、Copilotの組み合わせが競合他社の市場参入を阻む「囲い込み構造」を形成しているかどうかが、今後の審査の核心となる見通しだ。欧州委員会や各国規制当局も同様の問題意識を持っており、今回のCMAの動向は国際的な規制議論にも影響を与えそうだ。