概要

Bloombergの報道(2026年5月5日)によると、Appleはデバイス向けの主力プロセッサ(AシリーズおよびMシリーズチップ)を米国内で製造する可能性を検討するため、IntelおよびSamsungとの初期段階の協議を進めている。Appleの担当者はSamsungの建設中のテキサス州工場を視察しており、Intelのファウンドリー事業との議論も行われているという。ただし、いずれの協議も現時点では発注には至っておらず、実際にパートナーシップが成立するかどうかは未確定の状態だ。

背景:AI需要急増によるサプライチェーン制約

Appleが製造先の多角化を検討する直接的な契機となったのが、先端プロセスノードの供給不足だ。2026年第2四半期の決算説明会でCEOのティム・クックは、SoCの製造に必要な先端ノードの可用性が3月期および6月期における最大のサプライチェーン上の制約であると述べ、その影響でMac miniおよびMac Studioの供給が制約を受けていると説明した。Mac miniとMac Studioについては需給バランスの回復に数ヶ月を要するとも語った。

この供給圧迫の要因は二つある。一つはAIデータセンターの急速な拡張によってTSMCの先端製造能力が世界規模で逼迫していること、もう一つはローカルAIモデルの実行に適したMacへの需要が予想を大幅に上回ったことだ。Appleは10年以上にわたってTSMCに製造を依存してきており、最新のiPhoneおよびMac向けには3ナノメートルプロセスを採用している。

製造能力への懸念と課題

最大の障壁は、IntelおよびSamsungがTSMCと同等の生産規模と品質を安定的に提供できるかどうかという点だ。TSMCはAppleにとって最も重要なサプライチェーンパートナーの一つであり、2026年にはTSMCのアリゾナ州フェニックス工場でApple向けに1億個のチップが製造される見通しだ。IntelとSamsungはこのような高度な量産体制を提供できるファウンドリーとしての実績においてTSMCに大きく劣る。Appleは非TSMCテクノロジーへの移行に対しても技術的・品質的な懸念を持っており、協議が実際の調達契約に結びつかない可能性も十分あるとされている。

地政学的・政策的文脈

今回の動きは、チップ製造の自国回帰を求める米国の政治的圧力とも密接に結びついている。トランプ政権は米国内での先端半導体製造を重要政策の一つと位置づけており、Intelに対しては政府が株式保有権を持つなど、国家的チャンピオンとして育成しようとしている。Appleが仮にIntelとの協力関係を構築すれば、政権との関係強化にも直結する。台湾有事リスクに代表される地政学的懸念も、単一サプライヤーへの過度な依存を回避すべきという判断を後押ししており、米国内製造への移行はAppleにとってリスク分散と政策対応を同時に果たす戦略的意味を持つ。

今後の見通し

現時点では協議はあくまでも探索的な段階にとどまっており、発注が行われる具体的な見通しは立っていない。Appleは依然としてTSMCとの深い関係を維持しており、大規模な生産委託先の移行は技術的・商業的に多大なリスクを伴う。一方で、AI向けチップ需要の増大が中長期的に続くと見られるなかで、サプライチェーンの多様化は不可避の課題でもある。今後もAppleがIntelやSamsungとの協議を継続するかどうか、あるいはTSMCのさらなる増産投資に依存する方向を選ぶかが注目される。