概要

Vercelは2026年4月、オープンソースのAIコーディングエージェント基盤「Open Agents」を公開した。ローカルマシンに依存せずバックグラウンドで動作するコーディングエージェントを構築・実行できるプラットフォームで、GitHub連携による自動PR作成やセッションをまたいだ永続的ワークフローなどを備える。完成品のコーディングアシスタントを提供するのではなく、企業が自社向けにフォーク・カスタマイズするためのリファレンス実装として位置づけられている。

背景には大企業のコーディングエージェント導入における課題がある。Stripe・Ramp・Spotify・Blockといった企業はすでに内部向けコーディングシステムをオープンソース化しているが、既製のコーディングエージェントは企業固有の知識や統合が不足し、大規模モノレポではパフォーマンスが低下するといった問題が指摘されてきた。Open AgentsはそうしたニーズへVercelが提示する解答だ。

三層アーキテクチャと主な機能

Open Agentsは三層構造を採用する。

  1. ウェブインターフェース層:認証・セッション管理・ストリーミング対話を担当
  2. エージェントワークフロー層:推論と編成をデュラブルワークフローとして実行
  3. サンドボックス実行層:ファイルシステムアクセスとシェルコマンドを持つ隔離仮想マシン

特筆すべき設計上の判断は、エージェントロジックとサンドボックス実行を分離した点だ。エージェントはVM内部で直接動くのではなく、ファイル操作・検索・シェルコマンドといった定義済みツールを介してサンドボックスと対話する。これによりエージェントとサンドボックスのライフサイクルを独立して発展させられる構造になっている。

主な機能としては、マルチステップ実行とストリーミング出力、タスクキャンセル、GitHubリポジトリのクローン・ブランチ作成・PR自動生成、読み取り専用リンクによるセッション共有、ElevenLabsを使った音声入力、セッションのポーズ・休止・再開を可能にするデュラブルワークフロー、スナップショットベースのサンドボックス状態復元などが挙げられる。インフラ要件としてはPostgreSQLデータベース、OAuthによる認証、GitHub連携が必須で、キャッシュ用にRedisなどのKey-Valueストアがオプションで使用可能だ。

競合との位置付けと今後の課題

VercelのCEOギレルモ・ラウチは「ソフトウェア企業の競争優位性は『書かれたコード』から、そのコードの『生産手段』へ移行する」と主張し、「ソフトウェアファクトリー」という概念を強調している。このビジョンに沿い、Open Agentsはコーディングエージェントをリクエスト単位のツールではなく、継続的に長時間動作するシステムとして捉え直す方向性を示している。

一方、AnthropicはVercelとは対照的なアプローチとして「Claude Managed Agents」を提供しており、実行・編成・状態管理をホスト型プラットフォームとして提供している。両者に共通するのは、実行層がモデル自体と同程度に重要であるという認識だ。

ただし批判的な見方もある。開発者のMichiel Voortmanは「VMとエージェントを分離するのはこのプロジェクトの核心だが、中長期的にはエージェント開発のスピードを低下させると思う」と懸念を表明している。また、このアプローチは高い制御性と柔軟性をもたらす反面、システムの動作定義・独自ツール統合・長期保守を企業自身が担う必要があり、多くのチームにとっては依然として既製ソリューションが現実的な選択肢となる可能性が高い。