概要
三菱電機の漆間啓社長は2026年4月28日、ロームおよび東芝デバイス&ストレージ(TDSC)との3社でパワー半導体事業を切り出して合弁会社を設立する方針を表明した。3社はすでに2026年3月27日、パワー半導体事業の業務および経営統合に関する協議開始に向けた基本合意書を締結しており、今回の発言はその具体化に向けた意思表示となる。統合が実現すれば、世界市場シェアは約10〜11%となり、ドイツのInfineon Technologies(約17〜24%)に次ぐ世界第2位のパワー半導体メーカーが誕生する。
この3社合弁構想が浮上する直前、デンソーがロームへの約1兆3000億円規模の株式公開買い付け(TOB)を提案していたが、ローム側の賛同を得られず、デンソー取締役会は4月28日に提案の撤回を決議した。一連の動きは日本のパワー半導体業界の大規模な再編が本格化していることを示している。
各社の強みと統合の意義
3社はそれぞれ異なる技術領域で強みを持つ。ロームはSiC(炭化ケイ素)パワー半導体に強く、電気自動車(EV)向けの高効率インバーターで存在感を示す。東芝はシリコンMOSFETに定評があり、産業機器や民生機器で広く使われる。三菱電機はIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)とパワーモジュールに強みを持ち、鉄道や大型産業設備向けで高いシェアを誇る。
これらを組み合わせることで、EV普及やAIデータセンターの電力需要拡大に伴い急増するパワー半導体の需要に幅広く対応できるフルラインナップ体制が整う。世界市場ではInfineonや中国メーカーとの競争が激化しており、個別企業では対抗しにくいスケールの問題を3社統合で解決する狙いがある。漆間社長は「パワー半導体中心の構成にするべき」との立場を強調しており、パワー半導体事業に特化した合弁会社を想定している。
デンソーのローム買収提案撤退
デンソーは2026年2月にロームへのTOBを提案し、既保有の約5%に加え全株取得を目指していた。しかしローム経営陣は買収に強く反対した。ローム東克己社長は「同じ轍は踏まない」として、トヨタグループ傘下に入ることで経営の自律性が失われ、多様な顧客との取引関係が損なわれるリスクを挙げた。垂直統合的な自動車専用サプライヤーになるより、産業横断的なプレイヤーとして独立性を保つ道を選んだ形だ。
4月27日にデンソーが提案撤回を検討していると報じられると、ローム株は一時16%安まで下落し、15年ぶりの下落率を記録した。ただし撤回後も両社は戦略的パートナーシップを継続することで合意しており、アナログ半導体を中心に自動車・産業機器向けで協力を深める方針を確認した。
今後の展望
3社合弁の協議はまだ初期段階であり、統合比率や経営体制、合弁会社の上場・非上場といった具体的な条件は未定だ。3社はそれぞれ独自の事業ポートフォリオを持つため、どの範囲をどのように切り出すかが今後の焦点となる。日本政府も半導体産業の国際競争力強化を重要課題と位置づけており、官民連携での支援策が検討される可能性もある。EVとAIデータセンター双方で需要が膨らむパワー半導体市場において、Infineonへの対抗軸となる「日の丸パワー半導体連合」が実現するか、業界の注目を集めている。