概要

Amazonは2026年4月14日、衛星通信企業Globalstar, Inc.を約115.7億ドル(約1兆7,000億円)で買収することを正式発表した。Globalstar株主は1株あたり90ドルの現金またはAmazon株を選択でき、これはGlobalstarの直前終値に対して約23.5%のプレミアムに相当する。ただし現金選択は全株式の40%を上限とし、超過分はAmazon株に転換される。取引は2027年中のクロージングを見込んでおり、規制当局の承認を待つ状態だ。Globalstarは買収完了後、Amazonの完全子会社として事業を継続する予定。

戦略的価値の核心:Band 53スペクトラムが「本命」

今回の買収でAmazonが実質的に手に入れる最大の資産は、Globalstarが保有する24機のLEO(低軌道)衛星や24か所の地上局ネットワークよりも、**Band 53/n53スペクトラム(2483.5〜2495 MHzのLバンド・Sバンド)**だと広く評価されている。このスペクトラムの地上波利用(Band 53/n53)は現在12か国でライセンスを取得しており、高性能・低遅延・干渉なしの接続を実現するとGlobalstarは説明する。こうした特性は他社が衛星を打ち上げるだけでは複製できないため、業界関係者からは「ディールの王冠」とも呼ばれている。

Amazon Leoは2028年以降、このスペクトラムを活用したDirect-to-Device(D2D)サービス、すなわちスマートフォンへの直接接続による音声・データ・メッセージング通信の提供を計画している。

Amazon Leoの現状とFCCデッドライン

Amazonの衛星インターネット事業はかつて「Project Kuiper」として知られていたが、現在は「Amazon Leo」としてブランドを刷新している。現時点で運用中の衛星は180〜241機程度とされており、約1万機以上を誇るSpaceX Starlinkとは大きな開きがある。さらに、FCCからのライセンス維持要件として2026年7月30日までに計画衛星数(約3,236機)の50%以上にあたる約1,618機を軌道投入する義務があり、事業の拡大を急いでいる状況だ。今回のGlobalstar買収は、数年かかる周波数ライセンス取得や地上インフラ整備を一度の取引で解決する手段として機能する。

Appleとの関係:複雑な交渉を解決した「サイド契約」

今回の買収における最大の難題の一つが、AppleとGlobalstarの既存関係だった。Appleは2024年に15億ドルを投資してGlobalstarの約20%の株式を取得し、ネットワーク容量の85%を利用する権利を持っていた。iPhone 14以降やApple Watch Ultra 3に搭載された「衛星経由の緊急SOS」など安全性に直結するサービスはGlobalstarのインフラ上で動いており、買収にはAppleとの合意が不可欠だった。

Amazonとアップルはこの問題を解決するサイド契約を締結した。契約によれば、Amazon Leoは今後もiPhoneおよびApple Watchの衛星機能(緊急SOS、メッセージ、「探す」、ロードサイドアシスタンス)を継続的に支える予定だ。両社は将来の衛星サービスにおいても協力関係を築くとしている。

Starlinkへの対抗と業界インパクト

Globalstar自身は1991年創業の老舗衛星通信企業であり、2025年に初めて営業黒字を達成、年間売上高は2億7,300万ドルを記録していた。発表翌日にはGlobalstar株が10%上昇、Amazon株も約5%上昇した。

今回の買収はAmazonがSpaceX/Starlinkとの競争を本格化させる意志を鮮明にしたものだ。衛星数では依然として大きな差があるものの、独占的なスペクトラムとAppleとの提携、そして170億ドルを超えるLeo向け設備投資という組み合わせは、商業衛星通信市場の勢力図に変化をもたらす可能性がある。