概要
Intelの株価は2026年4月に入り9営業日で53%急騰し、時価総額が1000億ドル以上増加して3050億ドルを突破した。これはドットコムバブルが頂点にあった2000年8月以来約25年ぶりの水準であり、この9営業日の上昇率は1971年の上場以来で最大の記録的水準でもある。S&P 500構成銘柄の中でも4月随一の「最もホットな銘柄」と評され、年初来の上昇率は約72%に達した。2024年には時価総額が1000億ドルを下回り「生存モード」と形容されていた企業が、わずか1年強で劇的な復活を遂げた格好だ。
3つの触媒
今回の急騰を後押ししたのは、短期間に相次いだ3つの大型ニュースである。
第1の触媒:アイルランドFab 34の買い戻し(4月1日)
Intelはアイルランド・レクスリップに位置するFab 34の49%株式をApollo Global Managementから142億ドルで買い戻す契約を締結した。Apolloは2024年6月に112億ドルで取得しており、Intelは約27%のプレミアムを支払った形になる。資金は手元現金と約65億ドルの新規社債で賄われる。Fab 34は欧州で唯一の極端紫外線(EUV)リソグラフィによる高量産体制を持ち、Intel 3およびIntel 4プロセスで「Core Ultra」や「Xeon 6」を製造する拠点だ。外部株主への配当義務がなくなることで戦略的自由度が高まり、2027年初頭からEPS改善に寄与する見込みとされる。Intelは同取引が信用格付けの改善にも貢献するとしている。CFOのDavid Zinsner氏は「より強固なバランスシートと財務規律の改善を実現した」と述べた。
第2の触媒:GoogleとのAI拡大提携(4月9日頃)
GoogleはIntelの最新「Xeon 6」プロセッサを含む複数世代のXeonプロセッサをデータセンターにおけるAI訓練と推論のワークロードに採用すると発表した。さらに両社は、ネットワーク・ストレージ・セキュリティを担うカスタムASICベースの「インフラ処理ユニット(IPU)」を共同開発することでも合意した。GoogleのAIインフラ上席副社長Amin Vahdat氏は「CPUとインフラアクセラレーションはAIシステムの礎であり続ける」とコメントした。Lip-Bu Tan CEO は「AIのスケールにはアクセラレーターだけでなく、バランスの取れたシステムが必要」と強調し、IntelをNVIDIA製GPUと競合する「AIシステム全体」のプロバイダーとして位置付ける姿勢を示した。
第3の触媒:テキサス州のTerafabプロジェクト参加(4月7日)
Intelはイーロン・マスクが主導する総額200〜250億ドルの先進AIチップ製造複合施設「Terafab」に参画すると発表した。テキサス州オースティンに建設される同施設は、2nmクラスの18Aプロセスノードを用い、月間10万枚ウェハの生産を目標とする。製造した先端チップはTesla・SpaceX・xAIのAI・ロボット・自律走行用途に供給される予定だ。これはIntelのファウンドリ部門にとって初の大口外部顧客となり得る契約で、2025年に103億ドルの損失を計上し、外部収益はわずか3億700万ドルに留まっていた同部門の転換点として市場に受け取られた。
バリュエーションと市場の懸念
株価の急騰に伴い、Intelの予想PERは約90倍に達した。これはIntelとして過去最高の水準であり、ドットコムバブル時の最高値を50%以上上回る。半導体セクターの平均(約21倍)とも大きく乖離しており、Bloombergが追跡する52人のアナリストのうち買い推奨は10人、売り推奨は6人と、S&P 500平均の2倍以上の悲観的評価が残る。2026年の業績予想は1株あたり約0.17ドルの損失で、黒字転換は2027年(+0.33ドル)、安定軌道に乗るのは2029年(+2.13ドル)との見通しだ。一方、株価は既にアナリストのコンセンサス目標株価を上回っており、今後の実績が問われる局面に入った。
背景と今後の見通し
Intelの転落は2024年が最も深刻で、Pat Gelsinger前CEOの在任中に製造プロセスの遅れとコスト肥大が重なり、時価総額は1000億ドルを下回った。2025年初頭にLip-Bu Tan氏がCEOに就任して以降、「ファウンドリ2.0」戦略のもとで財務構造の簡素化と国内製造拠点の強化が進められた。2025年8月には米国政府がCHIPS法の補助金を転換する形でIntel株の約9.9%(無議決権)を89億ドルで取得しており、現在の株価ベースでは約270億ドルに膨らんでいる。
今後の注目点は、2026年4月23日に予定されるQ1 2026決算と、18Aプロセスノードの量産立ち上がりだ。AmazonやGoogleとのカスタムAIパッケージングに関する追加契約交渉も進行中とされており、Terafabを含めた複数のアンカー顧客が確定すれば、ファウンドリ部門の赤字縮小ペースが市場の予想を上回る可能性がある。一方で、TSMCとSamsungとの競合環境や、高バリュエーションを正当化するための実績積み上げが短期的な課題として残る。