概要

Appleの機械学習・AI戦略担当SVP(上席副社長)を務めていたJohn Giannandrea氏が、2026年4月に正式にAppleを退社した。Giannandrea氏は2018年4月にGoogleのSearch・AI部門のトップからAppleへ移籍し、約8か月でSVPに昇格。以来8年にわたってAppleのAI戦略を牽引してきた。しかし、Apple Intelligenceの展開の遅れやSiriの長期的な停滞を受けて2025年末からその役割は急速に縮小され、2025年12月には経営幹部ページから名前が削除。今年4月の退社をもって8年間のキャリアに幕を下ろした格好となった。

段階的な役職縮小と後任人事

Giannandrea氏の権限は退社の前から段階的に削られていた。2025年3月にはSiriの担当が剥奪され、同年4月にはロボティクス部門も外れた。残ったAIインフラ部門はCOOのSabih Khan氏へ、Search・Knowledge部門はEddy Cue氏へとそれぞれ移管された。2025年12月には顧問という形でSVPを退き、今回の退社でそれが完全に終結した形だ。

後任として、Microsoftで「コーポレートVP of AI」を務め、その前にはGoogleで16年間エンジニアリングを率いてGemini Assistantの開発にも携わったAmar Subramanya氏が新たに「VP of AI」として採用された。Subramanya氏はCraig Federighi氏の直属として就任し、Appleが改めて外部から実戦経験豊富なAI人材を登用したことを示している。

Apple Intelligenceを巡る失敗の連鎖

Giannandrea氏の退社の背景には、Apple Intelligenceの立ち上げにおける一連の失敗がある。2024年のWWDC(世界開発者会議)でAppleが発表した刷新版Siriの機能群は、iOS 18での提供を予告していたにもかかわらず、実質的に1年間の遅延が生じた。内部では「Siriチームが一度も動作する状態を見たことのない機能をデモした」と報告されており、デモが"事実上フィクション"だったとも指摘されている。また、内部でAI・MLグループは「AIMLess(目的のないAI組織)」と揶揄されており、技術方針の迷走(複数の小規模LLMからクラウド統合LLMへの移行とその撤回など)やリーダーシップの対立が続いていたとされる。

結果として、Appleは高度なSiri機能の一部でGoogleのGeminiを採用することを決定。自社AIの限界を補うため競合のモデルに依存する形となった。ChatGPTが2022年に登場した際にGiannandrea氏が「ユーザー価値に懐疑的だった」との報告もあり、経営幹部がAIシフトへの対応を後手に回したことが指摘されている。その間、優秀なエンジニアがMeta・OpenAI・Anthropicへと流出し、組織の空洞化も加速した。

今後のAppleのAI戦略

Tim Cook CEOはGiannandrea氏の退社にあたり「Johnが私たちのAI活動を構築・前進させるうえで果たした役割に感謝する」とコメントを出したが、2026年2月の全社集会ではその名前に一切触れなかったとも伝えられ、静かな幕引きとなった。Subramanya氏を新たな舵取り役に据えたAppleは、遅れを取ったAI競争でどこまで巻き返せるかが問われる局面を迎えている。なおBloombergのMark Gurmanによる同ニュースレターでは、AIスマートグラスの機能・カラー・カメラ仕様など次世代ハードウェア計画も併せて報じられており、Appleが次のAI体験をウェアラブル領域にも広げようとしていることが示唆されている。