概要
HPとEricssonがほぼ同時期に大規模な人員削減を発表し、マクロ経済環境の変化がテック・通信業界に波及していることが改めて浮き彫りになった。HPは「Future Ready」再編プログラムの一環として1,000〜2,000人の追加削減をSECに届け出た。同社の約58,000人規模の全社員に対して最大約3.4%に相当する削減だが、2025年末に発表した4,000〜6,000人の削減計画(全体の最大10%)に加えての措置であり、累計での影響は大きい。一方、スウェーデンの通信インフラ大手Ericssonは2026年1月15日、国内従業員約12,600人のうち1,600人(約12〜13%)を削減すると発表。さらに1月14日にはスペインでも300人の追加削減を公表しており、両国合わせて計約1,900人がこの波に飲み込まれた。
HPの削減:関税・PC市場の逆風と「AI時代」への転換
HPのCEOエンリケ・ロレスはかつて関税の影響を「ほぼ軽微」と発言していたが、今回の届け出では米国の通商規制をリスク要因として明示的に列挙した。カナダ・メキシコ・EUからの輸入品に課される関税が製造コストを押し上げているほか、メモリチップ価格の高騰(前四半期にPCコスト全体の15〜18%だったものが直近で約35%にまで急騰)もマージンを圧迫している。PC市場では2025年第1四半期に消費者向け売上が台数ベースで11%落ち込む一方、法人向けは10%増と二極化が続く。
再編で生み出したコスト削減額は少なくとも年間10億ドルをFY2028末までに達成する計画で、今回の追加リストラに伴う費用は約1.5億ドル(FY2026内に2.5億ドルを含む約6.5億ドルの総費用の一部)と見込む。ロレスはAIが「より速く、より上手く」多くの業務をこなせると公言しており、削減対象は工場スタッフ、カスタマーサポート、HR管理部門、レガシー系エンジニアに集中するとみられる。株価は年初来25%下落しており、投資家の厳しい視線が続いている。
Ericssonの削減:5G投資減速とコスト競争の長期化
Ericssonにとって今回のスウェーデンでの削減は孤立した出来事ではない。2023年2月には全世界で8,500人、2024年3月にはスウェーデンで1,200人を削減しており、今回は3年連続の大規模な国内リストラとなった。CEO ボリエ・エクホルムは直近の第4四半期決算で「過去1年間だけで5,000人を削減した」と述べ、今後も継続的な人員縮小を進める方針を示している。
削減の主因は、5G展開の第一波が一巡した後の通信事業者の設備投資急減だ。各キャリアが既存ネットワークの収益化にシフトする中、新規インフラ発注が細っている。加えて、米国の関税措置が北欧メーカーのコスト競争力を削ぎ、中国系競合が積極的な価格設定で市場シェアを伸ばしている構図もある。スウェーデン労働組合(SEのグループ交渉担当パー・ノルランダー)は「削減はコアビジネスだけでなく研究開発にも及ぶ」と警告しており、長期的な技術競争力への影響を懸念する声も上がっている。Ericssonは今後、プログラマブルネットワーク、ソフトウェア定義サービス、ミッションクリティカルなプライベート5Gを成長の軸と位置付け、ハードウェア販売に偏った収益構造からの転換を急いでいる。
業界全体に広がる余波
HPとEricssonの動きは、テック・通信業界における「関税対応と事業再編の同時進行」という2026年の潮流を象徴している。両社のレイオフは個別の経営判断であると同時に、米国の通商政策がサプライチェーンや採用計画に与える構造的な圧力を示す事例でもある。同様のコスト圧力はNokia(ドイツ・ミュンヘン拠点閉鎖)、HPE(利益見通しの下方修正)など他の企業にも波及しており、業界全体での雇用縮小トレンドが続く可能性が高い。