出荷台数は急減、市場金額は逆行して拡大

IDC(International Data Corporation)は2026年3月、同年のPC出荷台数予測を 2億5,253万台(前年比-11.3%) に大幅下方修正した。わずか数ヶ月前の2025年11月時点では-2.4%、2026年1月時点でも-8.9%だった予測が、さらに悪化した形だ。タブレット市場も同様に前年比-7.6%と縮小が見込まれる。

逆説的なのは、台数が減る一方で市場金額が増加していることだ。PC市場全体の価値は 2,740億ドル(前年比+1.6%) 、タブレット市場は668億ドル(前年比+3.9%)に達すると予測されている。大手OEMのLenovo、Dell、HP、Acer、ASUSはすでに顧客に対し15〜20%の値上げと契約条件の見直しを通知しており、「台数は少なく、単価は高く」という構図がはっきりと現れている。

AI向けHBM需要がPC向けメモリを直撃

出荷台数下方修正の最大の要因は、AI学習・推論用のHBM(高帯域幅メモリ)需要に起因するDRAM供給不足だ。Samsung、SK Hynix、Micronの主要3メモリメーカーが、製造キャパシティと設備投資をHBMなど高マージンのエンタープライズ向け製品にシフトしている。

IDCはこの構造を「ゼロサムゲーム」と表現し、「NvidiaのGPU向けHBMスタックに割り当てられたウェハー1枚は、ミッドレンジスマートフォンのLPDDR5Xや消費者向けノートPCのSSDから奪われた1枚だ」と指摘した。価格差が生産シフトの動機となっており、HBM3Eモジュールの単価が一般的なDDR5の約10倍(60〜100ドル対5〜10ドル)に上ることが、メーカーに高マージン品への集中を促している。

供給成長率についても、2026年のDRAMは前年比+16%、NANDは+17%と、いずれも歴史的水準を下回る見通しだ。2026年Q1のメモリ価格はすでに2025年Q4比で80〜90%急騰しており、一部ベンダーはRAMなしのプリビルドPCを販売し始めるほどの状況になっている。

消費者・小規模ベンダーへの深刻な影響

価格高騰はPC購入者に直接打撃を与える。IDCのResearch ManagerであるJitesh Ubraniは「格安PCとタブレットの時代は当面終わった」と述べ、2028年以前に2025年の価格水準へ戻ることはないと予測した。PC平均販売価格(ASP)は中程度のシナリオで4〜6%、悲観的シナリオで6〜8%の上昇が見込まれる。

市場構造の変化も懸念される。規模と長期供給契約を持つ大手OEMは供給制約下でも優位に立てるが、小規模・地域ブランドは生き残れないリスクがある。また、Windows 10サポート終了(2025年10月)に伴うリフレッシュ需要と価格高騰が重なる「パーフェクトストーム」も警戒されており、DIY愛好家や一般消費者が購入を延期したり、スマートフォンなど他デバイスへ支出をシフトする可能性がある。

IDCのResearch Vice PresidentであるJean Philippe Bouchardは「メモリ状況の変化が非常に速く、12ヶ月後にはPC市場は大きく異なる姿になっているだろう」と述べており、供給不足は2027年まで継続する見通しの中、市場の構造変化はしばらく続くとみられる。