Anthropic、非公開市場での評価額が1.2兆ドルに急騰しOpenAIを逆転

概要 Anthropicの株式が非公開の二次市場(セカンダリーマーケット)で評価額1.2兆ドルに達し、約9,080億ドルとされる競合OpenAIの評価額を初めて上回ったことが明らかになった。この数字は、5月に実施されたシリーズHラウンドでの評価額9,650億ドルからわずか1カ月半ほどでの急騰であり、過去1年間では実に550%という驚異的な伸び率となる。3カ月前の評価額が1兆ドルだったことを踏まえても、その後の上昇ペースは異例の速さだ。 市場の需給が生む「フロス」 今回の評価額急騰の背景にあるのは、業績や収益の伸びというよりも、極端な需給の逼迫だという指摘が多い。ある取引プラットフォームの幹部は「Anthropicはベンチャーのセカンダリー市場がこれまでに見た中で最も引く手あまたの企業だ」と語っている。あるブローカーは「誰も売ろうとしない」状態だと述べており、取引が成立すること自体が稀になっている。需要が供給を大幅に上回るあまり、一部の買い手は自宅とAnthropic株式の交換を持ちかけたとも報じられている。 こうした投資熱の高まりを受け、多くの取引は特別目的事業体(SPV)を経由する形で行われている。しかしAnthropic自身はこうした間接的な投資ルートに対して公式に注意喚起をしており、セカンダリー株式は取締役会の議席や確実な出口(イグジット)を伴わない、流動性の低い少数株主持分に過ぎないと警告している。詐欺のリスクも依然として高いとされ、投資家には慎重な判断が求められている。 IPOを控え、評価額の真価が問われる Anthropicは6月にIPO(新規株式公開)を非公開で申請しており、数カ月以内の上場が見込まれている。今回の1.2兆ドルという評価額が、企業の実力を反映した正当な水準なのか、それとも公開市場の厳しい審査には耐えられない非公開市場特有の「フロス(泡)」に過ぎないのかは、この上場によって初めて明らかになる見通しだ。AI業界の勢力図を左右しかねないOpenAIとの評価額逆転劇は、IPOに向けた注目をさらに集めることになりそうだ。

July 13, 2026

Apple、元従業員の引き抜きを巡りOpenAIを企業秘密窃取で提訴

概要 Appleは2026年7月10日、カリフォルニア北部地区米国連邦地方裁判所にOpenAIを提訴した。訴状でAppleは、OpenAIのハードウェア事業が「違法な依存関係によって根本的に腐敗している」と主張し、400人超の元Apple従業員がOpenAIに移籍する中で、組織的な企業秘密の窃取が行われたと訴えている。両社は2024年にChatGPTをSiriの代替として統合する提携を結んでいたが、OpenAIが独自のハードウェア事業に参入して以降関係が悪化しており、今回の提訴は大手テック企業と生成AI企業の間で異例の法廷闘争に発展した。 具体的な告発内容 訴状で名指しされている主な被告は2人。1人はOpenAIの最高ハードウェア責任者Tang Tan氏で、Appleに24年在籍しiPhoneやApple Watch、iPodの製品設計を担っていた人物だ。Appleは、Tan氏が採用面接で「Appleの機密プロジェクトコード名」を使用したほか、応募者に「実際のApple機器部品」を面接に持参するよう指示したと主張している。もう1人はAppleに8年在籍した上級システム電気エンジニアのChang Liu氏で、退職時にApple支給のラップトップを返却せず、機密のハードウェア技術文書をダウンロードしたとされる。訴状はさらに、OpenAIが採用候補者に対して「調査を回避する方法」を指導しながら、機密情報の共有を奨励していたとも主張している。Appleは、盗用された情報には未発表技術の技術仕様やエンジニアリングプレゼンテーション、proprietaryなプロジェクトデータが含まれると説明している。 背景にある提携関係の悪化 両社の関係は2024年の協業開始から一転して対立へと転じた。当初AppleはChatGPTをiPhoneのSiriの代替機能として統合するためにOpenAIと提携していたが、その後OpenAIは元Appleのリードデザイナーであるジョニー・アイブ氏を迎え入れ、同氏の企業io Productsを約65億ドルで買収してAI連動デバイスの開発を本格化させた。この動きはiPhoneの競合となり得る製品開発への懸念をAppleに抱かせたとみられる。Appleは2026年2月の時点でOpenAIに懸念を伝えたが、応答がなかったと主張しており、これが今回の提訴に至る一因になったとされる。OpenAIのCFOであるサラ・フライアー氏は、2026年末までにコンシューマー向けハードウェア製品を投入する意向を示しており、OpenAIは「従来の製品とインターフェースを超える新しいインタラクション方法」を模索しているという。 両社の反応と今後の見通し Appleは声明で「我々のチームの努力と革新を守ることは極めて重要だ」と述べ、企業秘密保護のために法的措置に踏み切った姿勢を強調した。一方でOpenAI広報のドリュー・プサテリ氏は「OpenAIは他社の企業秘密には関心がなく、革新的な技術の構築に注力している」とコメントし、Appleの主張を退けている。今回の訴訟は、生成AI企業が既存のスマートフォン・PCメーカーの人材やノウハウを取り込みながらハードウェア市場に参入する動きが本格化する中で、人材の流動性と企業秘密保護の境界線を巡る先例となる可能性がある。訴訟の行方次第では、AI企業による人材獲得競争や技術開発戦略に一定の制約が生じることも考えられ、今後の審理の展開が注目される。

July 13, 2026

Linux KVMに16年潜んでいたuse-after-free「Januscape」、ゲストVMからホスト脱出のリスクが発覚

概要 Linuxカーネルの仮想化基盤であるKVM(Kernel-based Virtual Machine)のshadow MMU(メモリ管理ユニット)に、約16年間にわたって潜んでいたuse-after-free脆弱性「Januscape」(CVE-2026-53359)が公表された。悪意あるゲストVMがホストのカーネルメモリを破壊し、ゲストからホストへのエスケープを引き起こせる深刻な問題で、IntelとAMDの両x86プラットフォームに影響する。多くのクラウド事業者がKVMを仮想化基盤として利用しているため、マルチテナント環境における潜在的な脅威として注目されている。 この脆弱性は研究者Hyunwoo Kim(@v4bel)によって発見され、Googleが運営するKVM向けバグバウンティプログラム「kvmCTF」にゼロデイとして提出された。Kimはこの2ヶ月の間に3件のLinuxカーネル脆弱性を公表しており、5月には「Dirty Frag」、6月にはARM64向けの「ITScape」を報告している。同時期には別のshadow MMU use-after-freeであるCVE-2026-46113も修正されており、KVMのメモリ管理まわりに複数の類似した問題が集中して見つかっている状況だ。 技術的な詳細 KVMは仮想マシンのメモリレイアウトを追跡するため、独自のシャドウページテーブルを管理している。Januscapeの根本原因は、同じメモリアドレスを共有する異なる種類のページを、KVMが正しく区別せずに再利用していたことにある。研究者の説明によれば「2つの異なるタイプが同じアドレスを共有できるが、まったく異なる機能を実行する」状況が発生し、これがuse-after-freeを引き起こしていた。 この脆弱性は2010年8月リリースのカーネル2.6.36から存在しており、2026年6月19日にメインラインへマージされたcommit 81ccda30b4e8で修正されるまで、実に16年近く見逃されていた。修正内容はkvm_mmu_get_child_sp()関数にrole.wordとgfnの両方をチェックする処理をわずか1行追加するというもので、根本原因の単純さに対して発見までの期間の長さが際立っている。 攻撃を成立させるには、ゲストVM内でのroot権限とネストされた仮想化(nested virtualization)の有効化が前提条件となる。公開されているPoCは読み込み可能なカーネルモジュールを用い、数秒から数分のレース条件によって確実にホストをパニックさせるところまでを実証する内容にとどまる。一方、非公開とされる完全なエクスプロイトでは、ホスト上でのroot権限によるコード実行が可能になり、同一物理マシン上で稼働する他のゲストVMへのアクセスにもつながるとされている。 対策とパッチ状況 修正パッチは2026年7月4日リリースの各安定版カーネルに反映されており、Linux 7.1.3、6.18.38、6.12.95、6.6.144、6.1.177、5.15.211、5.10.260が対応バージョンとなる。該当するカーネルを利用しているクラウド事業者やオンプレミス環境の管理者は、速やかなアップデートが推奨される。 即座に取れる緩和策としては、ネストされた仮想化を無効化すること(kvm_intel.nested=0またはkvm_amd.nested=0)が挙げられる。ネスト仮想化を利用しない環境であれば、この設定変更だけで攻撃経路を遮断できるため、パッチ適用までの一時的な対策として有効だ。

July 13, 2026

npm 12がリリース、依存関係のインストールスクリプトをデフォルト無効化しサプライチェーン攻撃対策を強化

概要 GitHubは2026年7月、npmの新バージョンv12.0.0を正式リリースした。最大の変更点は「allowScripts defaults to off」という方針転換で、これまでnpm install実行時に自動で走っていた依存パッケージのpreinstall・install・postinstallといったライフサイクルスクリプトが、デフォルトで無効化される。相次ぐサプライチェーン攻撃を受けた大きな方針転換であり、世界中の膨大な数のnpmユーザーに影響する変更となる。 技術的な詳細 npm 12では、主に3つの制御がデフォルトで厳格化された。 ライフサイクルスクリプトの無効化:依存関係のスクリプトや、暗黙的に実行されていたnode-gypによるネイティブビルドが、明示的な許可なしには実行されなくなる。 Git依存関係の制限:--allow-gitのデフォルトが「none」となり、直接・間接を問わずGit経由の依存関係が明示的な許可なしには解決されなくなる。 リモートURL依存の制限:--allow-remoteのデフォルトも「none」となり、HTTPS経由のtarballなど、リモートURLからの依存関係取得が制限される。 正当なビルドスクリプトを必要とするパッケージを使い続けたい開発者は、npm approve-scripts --allow-scripts-pendingを実行して信頼するスクリプトを個別に承認し、その結果をpackage.json内のホワイトリストとしてコミットする運用が必要になる。 セキュリティ関連の追加変更 今回のリリースでは、npmのGranular Access Tokens(GAT)にも重要な変更が加わった。2要素認証(2FA)をバイパスするよう設定されたGATは、アカウントや組織に関わる機微な操作を実行できなくなる。対象にはトークンの作成・削除、リカバリーコードの生成、パスワードやメールアドレスの変更、2FA設定の変更、パッケージアクセス管理、公開組織・チームの管理などが含まれる。この制限は2026年8月初旬から段階的に発効する予定だ。 今後の展望 npmは2027年1月をもって、Granular Access Tokens(GAT)による直接公開機能を廃止する計画も示している。GATの公開範囲はプライベートパッケージの読み取りと公開のステージングに限定され、実際の公開には人間による2FA承認が必要になる。今後は自動公開についてOIDCベースのtrusted publishing、あるいは人間によるレビュー・承認ステップを経た公開フローへの移行が推奨される。同時期には、pnpm 11.10でも認証情報とその接続先ホストを単一の構造化された値として関連付ける_auth設定が導入されており、リポジトリに紛れ込んだマルウェアによる認証トークンの横取りリスクを軽減する動きが業界全体で広がりつつある。

July 13, 2026

OpenAI、3段階モデル群「GPT-5.6」を発表 コーディング性能で新記録、政府審査を経てSolも一般提供へ

概要 OpenAIは7月9日、ChatGPT・Codex・APIを通じて新モデル群「GPT-5.6」を発表した。これまでの単一モデルによる提供方針を転換し、フラッグシップの「Sol」、バランス型の「Terra」、低コスト・高速な「Luna」という3つの能力ティアを新たに導入した点が最大の特徴となる。Solはコーディングや科学、サイバーセキュリティといった高度なエージェント作業向けに設計されており、難易度の高いタスクで人間の専門家レベルの能力を測る「Agents’ Last Exam」ベンチマークで新記録を達成したと発表されている。Solは高度なサイバーセキュリティ関連の能力を理由に米政府の審査対象となり、6月26日から約2週間は限定されたプレビューパートナーのみへの提供にとどまっていたが、審査を終えた7月9日にはTerra・Luna同様に一般提供が開始された。 3つのモデルティアと価格設定 GPT-5.6ファミリーは用途に応じて選べる3段階構成となっており、価格は百万トークンあたりの入出力コストで示されている。最上位のSolは入力5ドル・出力30ドルで、コーディングと推論において最高性能を発揮するモデルと位置付けられる。中間のTerraは入力2.5ドル・出力15ドルで、日常的なタスクを中程度の性能でこなす選択肢として提供される。最も安価なLunaは入力1ドル・出力6ドルで、コスト効率を重視したユースケース向けとなる。この3段階の価格設定は、単一モデルで全ての用途をカバーしてきたこれまでのアプローチから、用途とコストに応じて使い分ける方向への転換を示している。 技術的な詳細 今回のアップデートでは、Responses APIにおける「プログラマティックなツール呼び出し」機能が新たに実装された点も注目される。モデルが生成したJavaScriptコードを、ネットワークアクセスのない隔離されたV8ランタイム上で実行する仕組みで、安全性を確保しながら自動的なコード実行を可能にする設計となっている。 ベンチマーク面では、Artificial Analysis Coding Agent Indexで80点を記録し、Claude Fable 5の77.2点を上回った。Terminal-Bench 2.1では88.8%を達成し、4つのエージェントを並列実行する「Ultra」機能を用いた場合は91.9%まで向上する。また仮想デスクトップ環境でのタスク遂行能力を測るOSWorld 2.0では62.6%を記録し、Opus 4.8と比較して85%少ないトークン使用量で同等以上の成果を上げたという。一方で、ソフトウェアエンジニアリングタスクを評価するSWE-Bench Proでは64.6%にとどまり、Claude Mythos 5の80%には約15ポイント及ばない結果となっており、モデルごとに得意分野が分かれる実態も明らかになっている。 提供状況と今後の展望 フラッグシップモデルであるSolは、高度なエージェント能力ゆえに米政府の審査対象となり、6月26日から7月9日までの約2週間、限定されたプレビューパートナーのみが利用可能な状況にあった。しかし審査を終えたことで7月9日にはTerra・Lunaとともに一般提供が開始され、企業や開発者も広くその性能を評価できるようになった。今後は、こうした政府主導の事前審査プロセスが他の高性能モデルのリリースにも適用されるかが注目される。

July 13, 2026

Accentureがデータ漏えいを確認、ソースコードや認証鍵など35GB窃取か

概要 大手コンサルティング企業のAccentureは、「888」を名乗るハッカーがハッキングフォーラム「PwnForums」上でおよそ35GB分のデータを盗んだと主張し、闇市場での販売を試みたことを受けて、セキュリティ侵害の発生を認めた。同社は声明で「この限定的な事案を認識しており、原因はすでに修復済みだ。Accentureの業務やサービス提供への影響はない」とコメントしているが、被害の具体的な範囲や漏えいしたデータの種類、顧客情報が含まれるかどうかについては明言を避けている。 窃取されたとされるデータ 攻撃者の主張によれば、窃取されたデータにはソースコード、RSA鍵、SSH鍵、Azureの個人アクセストークン(PAT)、Azureストレージのアクセスキー、各種設定ファイルなどが含まれるという。攻撃者はAccentureのドメインからクローンしたとみられるAzure DevOpsリポジトリのスクリーンショットも提示しているが、その内容が本物かどうかは第三者による独立した検証はできていない。データがどのように持ち出されたのか、個人情報が含まれているのか、そして攻撃者が最初にどうやって社内システムへの侵入経路を確保したのかといった点は、依然として明らかになっていない。 専門家の見方と過去の経緯 セキュリティ企業Corsica TechnologiesのCISOであるRoss Filipek氏は、Accentureのような大手コンサルティング企業は「大企業の基幹システムに近い場所に位置している」ため攻撃者にとって魅力的な標的になると指摘する。同氏によれば、こうした侵害が成功すると「エンタープライズシステムがどのように構築されているか、各チームがどう認証を行っているか、信頼された接続がどこにあるか」といった手がかりを攻撃者に与えかねないという。Accentureにとっては、2021年のLockBitによるランサムウェア攻撃、2024年に発生した従業員データに関わる第三者経由の情報漏えいに続き、今回で3度目となる重大なセキュリティインシデントであり、近年ではセキュリティ企業Dragosの買収や、クラウド製品のセキュリティ問題を隠蔽したとして元従業員が起訴された事案もあった。 今後の影響 漏えいしたとされる認証情報の中にはAzureの各種キーやトークンが含まれるため、仮に事実であれば影響はAccenture社内にとどまらず、同社が管理・支援する顧客企業のクラウド環境にまで波及する可能性がある。現時点でAccentureは侵入経路や被害の全容を公表しておらず、今後の調査の進展や追加の情報開示が注目される。

July 12, 2026

Anthropic、ビットコインマイナーTeraWulfと20年・190億ドルのAIデータセンター契約 ケンタッキー州に401MW拠点

概要 Anthropicは、ビットコインマイニング企業TeraWulfとの間で、ケンタッキー州ホーズビルにある「Justified Data」キャンパスを対象とした20年間・総額約190億ドル規模のデータセンター賃借契約を締結したと発表した。同キャンパスは元アルミニウム製錬施設の跡地790エーカーに建設中で、完全稼働時には最大401メガワットのAI計算能力を確保する計画となっている。発表を受けてTeraWulfの株価は一時19%急騰し、最終的には約4.8%高で取引を終えた。同社は年初来で80%以上値上がりしており、時価総額約120億ドルの企業にとって、契約自体の将来収益が企業価値全体を上回る規模となる。 契約の詳細と今後のスケジュール 今回の契約では、初期容量が2027年後半にオンライン化され、施設全体は2028年初頭までに完全稼働する予定である。TeraWulf CEOのポール・プラガー氏は「Anthropicとのリース契約は我々の戦略を裏付けるものであり、世界有数のAI企業との長期的な収益源を確立するものだ」と述べ、「今回の契約は将来の拡張に向けた枠組みを作るものであり、長期の顧客コミットメントを獲得できる当社の能力を示している」と付け加えた。TeraWulfの想定投資額は30億〜40億ドルとされ、契約総額の5分の1に満たない規模にとどまる。データセンターはクローズドループ冷却方式を採用し、地域の水源から新たに取水せず、水とプロピレングリコールの混合冷却材を循環再利用する設計となっている。 背景:ビットコインマイナーからAIインフラ企業への転換 ホーズビルの施設は、TeraWulfが2026年2月に約2億ドルで取得したものだ。同社は元来ビットコインマイニング企業だが、マイニング報酬の半減期を経て採掘事業の収益性が低下したことを受け、AIインフラのホスティング事業へと軸足を移す動きを加速させてきた。この転換の一環として、TeraWulfはテキサス州の施設に関する合弁事業「Abernathy Joint Venture」における50.1%の持分を、Fluidstack主導の投資家グループに約5億3,000万ドルで売却することも明らかにした。ジョイントベンチャー方式から自社保有・自社運営型の資産へと軸足を移し、顧客との直接的な関係構築を優先する戦略への転換がうかがえる。 Anthropicのインフラ戦略への影響 今回の契約は、Anthropicが従来型のクラウドプロバイダーとの契約に加えて、データセンターの直接リースへと舵を切っていることを示す事例でもある。Anthropicは既存のクラウド契約だけで合計10ギガワットを超えるサーバー容量を確保しているとされ、TeraWulfとの契約はこれに上乗せする形でコンピューティング能力を積み増すものとなる。AI企業各社が旺盛な計算資源需要を満たすため、従来はエネルギー関連企業とみなされてきた事業者との大型契約を相次いで結んでいる流れの中に、今回の案件も位置づけられる。

July 12, 2026

Paysafe・Skrill・Netellerの決済SDKを偽装、npmとPyPIで17件のタイポスクワッティング攻撃を検知

概要 セキュリティ企業Socketは2026年7月7日、npmとPyPIの両パッケージレジストリにまたがる調整型のタイポスクワッティング攻撃キャンペーンを検知したと発表した。攻撃者は決済サービスのPaysafe、Skrill、Netellerの公式SDKを装い、npmに13パッケージ(paysafe-checkout、paysafe-vault、paysafe-js、neteller、skrillなど、各4バージョンずつ)、PyPIに4パッケージ(paysafe-kyc、paysafe-payments、paysafe-sdk、paysafe-api)の計17件を公開していた。狙いは決済SDKを導入しようとする開発者を騙し、CI/CD環境の認証情報やシークレットを窃取することにあった。公開からわずか6分で悪意あるコードとして検知されたが、パッケージレジストリを標的にしたサプライチェーン攻撃の脅威が改めて浮き彫りになった。 巧妙なフェイクSDKの仕組み 悪意あるパッケージは、本物のPaysafe APIクライアントを模したクラスを実装しており、表面上は正常に動作しているように見える。実際には決済サービスの本物のエンドポイントには一切接続せず、{ success: true, method, path }のような偽の成功レスポンスを返すだけの「ファサード」に過ぎない。APIキーは環境変数PAYSAFE_API_KEYから読み込む形を取り、正規のSDKと同様の使い勝手を装うことで開発者に気付かれにくくしていた。 シークレット窃取とサンドボックス回避の手口 すべてのAPIリクエストメソッドが実行されるたびに、内部の_request()関数がシークレット抽出ルーチンを起動する仕組みになっていた。この処理では、変数名に「KEY」「SECRET」「TOKEN」「PASS」「AUTH」「API」を含む環境変数を片っ端からフィルタリングし、値を100文字に制限した上で窃取する。実際の被害シナリオではPAYSAFE_API_KEYだけでなく、AWS_SECRET_ACCESS_KEYやGITHUB_TOKEN、NPM_TOKENといったCI/CDの重要な認証情報も捕捉対象となっていた。 さらに、解析環境での検知を逃れるための仕掛けも組み込まれていた。CPUコア数が2未満の環境や、ホスト名・ユーザー名に「sandbox」「analyzer」「cuckoo」「virus」といった文字列が含まれる環境を検出すると、悪意ある処理をスキップする仕様になっている。窃取したデータの送信先となるC2(コマンド&コントロール)ドメインも、XORデコード、文字コードの17減算、文字列の反転という3段階の難読化処理で隠蔽されており、最終的にcaliber-spinner-finishing.ngrok-free.devというngrokベースのドメインへ通信する仕組みだった。このC2ドメインが解決するIPアドレスは、既知のマルウェア「NjRAT」など他の情報窃取型マルウェアのC2サーバーとしても使われていた実績があるという。なお、PyPI側のパッケージにはnpm版のようなAPIキーによるゲーティングがなく、インポートするだけで自動的にペイロードが実行される点も特徴だった。 攻撃者の狙いと今後の対策 Socketの分析によれば、攻撃者は決済関連SDKという特定領域に戦略的に的を絞り、パッケージごとに異なる難読化キーを使用することでシグネチャベースの検知を回避しようとしていた。npmとPyPIという複数エコシステムにまたがる攻撃を仕掛けられる技術力も示しており、サプライチェーン攻撃の巧妙化を裏付ける事例といえる。Socketは、該当パッケージを実行した端末上のすべてのシークレットを速やかにローテーションすること、依存関係に13件のパッケージ名が含まれていないか確認しレジストリプロキシ側でのブロックを検討すること、CIやビルドホストから.ngrok-free.devへの不審な通信がないか監視すること、PAYSAFE_API_KEYと該当パッケージ名の組み合わせについてCIログを監査することを推奨している。また52件のSHA-256ファイルハッシュを含む侵害指標(IoC)も公開されており、組織は自社環境への影響有無を照合できる。

July 12, 2026

VS Code 1.128リリース、複数Claudeエージェントを並行実行できる「マルチチャットセッション」を搭載

概要 Microsoftは7月8日、Visual Studio Codeの最新版となる「VS Code 1.128」をリリースした。目玉となるのは、1つの親セッションの中で複数の関連するチャットを並行して扱える「マルチチャットセッション」機能だ。Claudeなどのエージェントホストセッションにおいて、異なるアプローチを比較したり、途中のターンから分岐させたり、複数の作業を同時並行で進めたりできるようになった。各チャットはそれぞれ独立した履歴・タイトル・モデル選択を保持しつつ、一つのグループとしてまとめて管理されるため、作業がバラバラの独立セッションに分散してしまう問題を避けられる。あわせて、画像やPDFをチャットに添付できる「Copilot Vision」が正式にGA(一般提供)となったほか、VS Codeがフォーカスされていない状態でもコマンドを実行できる「OSレベルのキーボードショートカット」など、複数の機能強化が同時に投入された。 技術的な詳細 マルチチャットセッションでは、エージェントホストのセッション配下に複数の子チャットをぶら下げる形で管理する。各チャットは独自の会話履歴・タイトル・使用モデルを持てるため、たとえば同じタスクに対して異なるモデルやアプローチで並行して試行し、後から結果を比較するといった使い方が可能になる。セッション内の各チャットへは直接ディープリンクできるほか、複数チャット間を素早く移動するためのナビゲーションショートカットも用意された。 Copilot Visionは、チャットへの画像・PDFファイルの添付に対応する機能で、ペースト・ドラッグ&ドロップ・右クリックメニューのいずれからも添付でき、エージェントはツール呼び出しを通じてその内容を読み取れる。今回のリリースでプレビューを終え、正式に一般提供(GA)となった。 このほか、キーバインド設定にsystemWide: trueを指定することで、VS Codeがフォーカスを失っていてもコマンドを起動できる「OSレベルのキーボードショートカット」が導入され、Agentsウィンドウなどへの素早いアクセスに活用できる。ワークスペースに紐付かない「クイックチャット」も追加され、⌘K ⌘N(Linuxではcmd+K cmd+N)から起動可能で、特定プロジェクトに関係しない質問向けに、リロードをまたいで独立したセッションとして保持される。そのほか、カスタムエンドポイントに対する温度(temperature)やtop_pなどのサンプリングパラメータ設定、エージェントホストセッションでの実験的なBYOK(Bring Your Own Key)モデル対応、エンタープライズ向けのOpenTelemetryテレメトリ管理、ブラウザタブの配置先を選べるworkbench.browser.newTabPlacement設定なども今回のアップデートに含まれている。 今後の展望 マルチチャットセッションやBYOKモデル対応の実験的サポートは、複数のAIエージェントを組み合わせて開発を進める「マルチエージェントワークフロー」への対応を強化する動きの一環と見られる。Copilot VisionのGA化により、スクリーンショットや設計資料などの非テキスト情報を交えたやり取りがより日常的な開発フローに組み込まれていくことが期待される。

July 12, 2026

中国DRAM大手CXMT、43億ドル規模のIPOへ サムスン・SKハイニックスに挑む

概要 中国安徽省合肥市に本拠を置くDRAMメーカー、長鑫存儲技術(ChangXin Memory Technologies、CXMT)が、上海証券取引所のテック企業向け市場「科創板(Star Market)」への上場を計画していることが明らかになった。7月15日にブックビルディング(価格協議)を行い、7月16日から申込を開始する見通しで、調達額は少なくとも295億元(約43億米ドル)に達する見込み。実現すれば、SMICの上場に次ぐStar Market史上2番目の規模のIPOとなり、2026年の中国A株市場でも最大級の新規上場となる。2016年に中国政府の支援を受けて設立されたCXMTは、いまや世界第4位のDRAMメーカーとされ、サムスン電子、SKハイニックス、マイクロン・テクノロジーという既存3強に真っ向から挑む構えを見せている。 業績の急拡大 CXMT躍進の背景には、驚異的な業績の伸びがある。通期売上高は前年比156%増の約86億ドルに達し、2024年の約33億ドル、2023年の約12億ドルから急拡大した。純利益も初めて黒字に転じ、10億ドル規模に達したという。直近の四半期でも売上高が前年同期比719%増となり、前年同期に28億3000万元の赤字だった純利益は330億元の黒字に転換した。同社はサムスンやSKハイニックスが高帯域幅メモリ(HBM)へシフトする過程で手薄になったDDR4など汎用メモリ市場を積極的に取り込み、世界シェアを7.67%まで伸ばした。価格面でも世界大手との差は5~10%以内に縮まっているとされる。主要顧客にはテンセントやバイトダンス(DDR5サーバー向けメモリの発注を開始)、アリババクラウド、レノボ、シャオミ、OPPO、vivoなどが名を連ねる。さらに、アップルがCXMT製メモリの調達に向けて米政府の承認を得ようとロビー活動を行っているとも報じられており、米国企業との取引拡大の可能性も注目されている。 資金使途とHBMを巡る攻防 IPOで調達した資金の使途としては、生産能力の拡張・増強に75億元(約11億ドル)、DRAM技術のアップグレードに130億元(約19億ドル)、次世代技術の研究開発に90億元(約13億ドル)が充てられる計画とされる。CXMTは3D IC技術を用いたカスタムメモリ市場を次の成長の突破口と位置づけているが、HBMをはじめとする先端製品では依然として韓国勢に2~3年遅れているとの指摘もある。AI・データセンター需要の拡大を背景に、中国の半導体市場は2026年に前年比93%増の8121億ドル規模、メモリチップ市場は263%増の4496億ドル規模へと急成長するとの予測もあり、CXMTの上場はこうした市場拡大の波に乗る動きといえる。今回のIPOの成否は、米国の輸出規制下で自国半導体産業の自立を急ぐ中国にとって、大きな試金石となりそうだ。

July 12, 2026